これまでの職務経験は自分が一番よくわかっている。今さら「棚卸し」なんて、時間の無駄ではないか?
そう思われる方も多いかもしれません。
18年間で1,300人以上の50代と向き合ってきた経験から断言できるのは、「自分にとって当たり前の経験」こそが、言語化できずに埋もれてしまう最大の武器であるということです。
多くの50代が転活で「自分の強みがわからない」「市場価値と現実のギャップに悩む」「職務経歴書がただの長い年表になる」といった3つの壁にぶつかるのは、この土台作りを飛ばして仕事探しを急いでしまうからです。
準備不足のまま走り出すのは、地図を持たずに険しい冬山へ登るようなもの。
本記事でご紹介するキャリアの棚卸しシートは、単なる職歴の整理ツールではありません。
次の4つのステップを順に踏むことで、これまでの経験を企業が欲しがる武器へと変化させていくことができます。
- 経験を振り返る
- ポータブルスキルを見つける
- エピソード化(物語)
- 価値観を見直す
転職活動を始めた方もこれから転職をしようとしている人もぜひ最後までお読みください。

キャリアカウンセラー
- 現役キャリアカウンセラー
- 18年間で1300人以上の転職・再就職相談を担当。
- 50代転活中向けの情報を発信。
- ポリシー:「今の経験で何が武器になるのか」を言語化し、失敗リスクを抑えた転職準備をサポート。
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棚卸しシート全体像:50代転職を整理する4ステップ

完璧主義は不要です。思いつくままに書き出し、あなたの独自性を形にしていきましょう。
キャリアの棚卸しシートは、これまでの豊かなキャリアを経験・スキル・物語・価値観の4ステップで整理するための道具です。
50代に期待されるのは単なる知識だけでなく、現場で培った人間力や責任感です。
立派な文章を作ろうとするのではなく、次の4つのステップで経験知1を見つけていきましょう。
ステップ1:経験をふりかえる

仕事の経験では役職だけでなく現場でのトラブル対応や後輩の育成など、数値化しにくい貢献にも目を向けます。
また、地域活動やPTA、家事育児、家計管理などの仕事以外の経験も、組織運営や調整力の証明となる意外な強みになります。

あなたが当たり前だと思っている日常が、実は他社でも再現性が高いスキルであることに気づくはずです。
振り返りで詰まったら見る質問
Q1. あなたの仕事にはどのような知識が必要でしたか?
Q2. あなたは仕事においてどのような人とつながってきましたか?
面談者の回答例
【自動車営業職】
A1. 自動車、部品、環境関連販売、運転、営業、接客、契約、自動車保険
A2. 個人のお客様、会社員、経営者、個人事業主
【食品メーカー営業職】
A1. 食品、栄養、衛生、安全、商流、棚取り、陳列、POP作成、イベント企画
A2. スーパーのバイヤー、店長
【自動車製造業】
A1. 自動車、部品、運転、メンテナンス、点検、整備
A2. 部品メーカーの技術者、関連工場の社長
ステップ2:スキルをチェックする

ステップ2では何ができるかを整理します。
特定の職種で磨いた専門スキルに加え、どの業界でも通用するポータブルスキルを明確にすることが50代転職の鍵になります。

課題発見力やチームをまとめる対人基礎力は、若手にはない50代ならではの評価ポイントとなります。
スキルチェックで詰まったら見る質問
Q3. あなたは具体的に何をどのように改善・工夫してきましたか?
Q4. あなたは仕事においてどんなことが得意でしたか?
面談者の回答例
【自動車営業職】
A3. 車の運転、お客様への説明、営業、クロージング、紹介の依頼、顧客訪問、納品、質問及びクレーム対応
A4. OB様から紹介いただくこと
【食品メーカー営業職】
A3. 商流開拓、仕入れ値調整、交渉、デモ、商品搬入、棚取り、陳列方法、イベント企画、POP作戦
A4. 法人営業して信頼を構築すること
【自動車製造業】
A3. 部品製造、車のメンテナンス、整備、修理、運転
A4. 製造現場のカイゼン活動を促進
若手と競うのではなく、経験に基づいた安定感や判断力を自分の軸に据えましょう。
かなえエピソード記入は1回だけでは終わりにせず、いくつも書き出しながら、成功体験を思い出していくといいですよ。
ステップ3:実績をエピソード化するコツ

面接や書類で説得力を持たせるためには、実績を物語(エピソード)にするのが効果的です 。
第三者から見てすごいと思われる必要はなく、「直面した課題に対して、自分がどう動き、どのような結果を得たか」を具体的に記します。
エピソード化で詰まったら見る質問
Q5. お客様と接するときに心がけていることはありますか?
Q6. あなたは仕事においてどんなときに達成感を感じますか?
面談者の回答例
【自動車営業職】
A5. 信頼関係をまっさきに築く、親切、丁寧
A6. お客様に感謝されたとき
【食品メーカー営業職】
A5. 誠実、即レス、即行動
A6. 自社商品が大きく売上を伸ばした、取引先スーパーに喜ばれた
【自動車製造業】
A5. 誠心誠意、安全第一
A6. 困難をのりこえ、新しい自動車に部品が搭載されたとき
特に大きな成果よりもピンチをどう乗り越えたかというプロセスの方が、あなたの責任感や適応力を評価してくれます。
ステップ4:大切な価値観を確かめる

50代の転職は人生の終盤に向けた再設計をします。
将来から逆算して働き方を選択していくイメージです。
少し早い気がしますがどんな60代でいたいかを言語化してから、今の働き方を考えていきましょう。
60代を考えるなんてちょっと早すぎませんか?
かなえ50代は定年まであと10年〜15年。先を見通すことでこれからどう働いたらよいか見えてくるんです。
また、今後の人生を幸せに過ごすには、やりたいことよりもやりたくないこと(苦痛)を減らすことに目を向ける必要があるからです。
ドイツの哲学者ショーペンハウアーは著書『幸福について―人生論』のなかで、
「幸福とは快楽を増やすことではなく苦痛を最小限に抑えることである」『幸福について―人生論』(ショーペンハウアー 新潮文庫)
という引き算の思考法を提唱しています。
在職中の今、避けるべきストレス要因をはっきりさせておくことで、入社後のミスマッチを防ぐことができます。
50代の転職で棚卸しから始める理由

50代がハマりやすい3つの壁を突破し、迷走を防ぐためには自分がこれまで磨いてきた武器の言語化が不可欠です。
武器といってもなかなか見つからないんです。何かきっかけはありませんか。
50代の転職活動が厳しいと言われる一因に、求人票の条件ばかり見てしまい、自分の強みを市場価値へ翻訳できていないことがあります。
経験豊富なため、自分では当たり前だと思っているスキルが実は他社が欲しがる武器であることに気づけず、結果として応募書類が長い年表というノイズになってしまうのです。
棚卸しを通して自分の現在地と武器を正しく整理することが、転職成功への近道になります。
かなえ「あなたの武器は〇〇です」と言われるのを期待していませんか?とにかく書き出してみましょう。自ずと武器は見えてきますよ。
経験が多いほど強みが見えなくなる
ルールに沿って事務処理してきただけなので強みが見えてこないです。
第一線を走ってきた50代の方は、自分の実績を「組織のルールに従っただけ」「当たり前のこと」と過小評価する傾向があります。
例えば、営業職の方が「ただ話を聞いてきただけ」という経験は、実は高い信頼関係の維持能力や調整力という立派な武器になります。
人材開発コンサルタントの田原氏は著書『55歳からのリアルな働き方』(かんき出版)で「経験知をお金に換えよう」と述べた上で、転職前の50代を次のように表しています。
ベテランであるあなたは、息を吸って吐くように自然に経験知を使いこなしているため、あなたが持っている経験知を認識できていません。
引用:『55歳からのリアルな働き方』(田原祐子 かんき出版)
このように転職活動の前には、深く沈み込んでしまった経験を掘り起こし、客観的な言葉に変換する作業が必要になります。
正社員・年収の思い込みが判断を鈍らせる
50代の転職では、前職と同じポストや年収を維持できるはずだという市場価値の誤解が大きな壁になります 。
採用側は人件費とパフォーマンスのバランスを慎重に判断します。
応募条件に固執しすぎると転職活動が長期化し、それに伴って自信を失うリスクが高まります。
棚卸しは自分が守るべき条件と、手放してもよい条件を整理する、心の準備でもあるのです。
50代転職でよくある迷走パターン

とりあえず応募、とにかく応募を始めてしまい、不採用が続いて自信をなくしてしまうのが典型的な迷走パターンです。
登山にたとえると、自分の希望や体力、スケージュールを全く考えずに、手当たりしだい登れそうな山に登ろうとするようなものです。
実際には自分の強みがわからない、市場価値が不明確、やりたいことと書類がかみ合わない状態です。
生活の土台である資産状況や家族の同意を確認せず、目先の条件にとらわれることで、内定後に行き詰まるケースも少なくありません。
書き終えたら何をする?在職中の現実的な次の一歩

棚卸しシートの作成はゴールではなく、納得できる再スタートを切るための羅針盤です。
シートを書き終えたら、あなただけの貴重な下書き資料の完成です。
これをベースに履歴書や職務経歴書を作成していきます。
繰り返しになりますが、最初から完成品を目指す必要はありません。
在職中のメリットを活かし、情報収集をしながら、第三者の視点を取り入れて自分の市場価値を見直すステップへ進んでいきましょう。
履歴書・職務経歴書は下書きでOK

履歴書・職務経歴書は棚卸しシートをそのまま清書せず、下書きとしてまとめておきます。
絵にたとえるとラフスケッチでいいんです。色を塗ってしまったあとは修正に時間がかかりますよね。
それぞれの応募先で活かせそうな力はないか、棚卸しの段階で箇条書きでまとめておきましょう。
50代の職務経歴書は枚数が多くなりがちですが、採用側が知りたいのは自社で活かせる実績だけです。
棚卸しシートで抽出した箇条書き(武器)の中から、応募先企業に合わせて削る・強調する作業をするための素材として活用してください。
情報収集と相談を使い分ける

一人で活動を進めると、どうしても主観的な分析になりがちです。
転職サイトで求人の傾向をつかむ情報収集と並行して、転職エージェントなどのプロへの相談を使うのもいいですよ。
エージェントに棚卸しシートを見てもらうことで、自分では気づかなかった市場のニーズや、意外な業界への可能性が見えてくることがあります。
棚卸しシートを第三者に見せる効果
書き出したエピソードが自己PRとして通用するかをキャリアコンサルタントなどの第三者に確認してもらうのは効果的です。
客観的な視点が入ることで、あなたの経験が雇う側のメリットへと洗練され、不採用が続くリスクを大幅に減らすことができます。
在職中の精神的な余裕があるうちに、ブラッシュアップ作業を積み上げていきましょう。
まとめ:棚卸しとは自信を作る作業

棚卸しを終えた今、あなたの手元にあるのは単なる経歴ではなく、これまで歩んできたキャリアと揺るぎない価値観が現れています。
自分には何もないという不安は、整理するだけで自分にはこういう価値があるという確かな実感に変わっていきます。
シートを埋める作業は、転職活動における土台作り。
この土台ができてしまえば、書類作成や面接でブレることはありません。
次回は「棚卸しシートをどう職務経歴書に落とすか、どう見せるか」について、採用担当者の心を動かす具体的な作成術を解説していきます。
かなえあなたの豊富な経験を「相手が欲しがる武器」に変える翻訳作業を一緒に進めていきましょう。
- 経験知とは、実際に体験することで得られる、言語化しにくい直感や勘、身体感覚を伴う知識やスキルのことで、本やセミナーだけでは学べない、現場で培われる「暗黙知」の代表例です。 ↩︎


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